…だれかいますか?
幸は穴の中に問いかける。
そのすぐ消えてそうな声は驚くほど穴の中に反響したかと思えば、
少しずつ音を失ってき、ある程度まで達したところでまるで蠟燭の火を
吹き消したように、ふとその姿を消した。
まるで大きな口の中に入るみたいね
真はにいと笑うと穴の中を指さし僕に向かって怖い?と聞いてきた。
怖くなんかないさ
僕は精一杯いつも通りの声でそう答えると、
真こそびびってるんじゃないの?と悪い顔で言ってやった。
わたしはぜーんぜん
真は得意げに鼻を膨らませてそう言うと、左にいる佐吉の背中を
思いっきり引っ叩く。
ねっ!佐吉!と真が佐吉の顔を覗き込むと、佐吉は飛び上がりそうなくらい驚いた後に
泣きそうな声で、もちろんと一言だけ答えた。とても大丈夫そうではない。
佐吉は暗いところが苦手なのだと幸が言っていた。
ここまでとは思ってなかったなあとこの先が心配になったのは僕だけではないはず。
さすがの真も佐吉の様子がおかしいことに気づいたようで、
ごめん痛かった?と心配そうに背中をさすり始めた。
お兄ちゃん、大丈夫?
さきほどから黙って洞窟を覗いていた幸が佐吉に声をかける。
佐吉はまるで悪夢から目覚めたかのようにはっとなったかと思えば、
あたりまえだろ!と次はしっかりとした声で答える。
よかった!じゃあ行こう!
祭囃子が村の方から聞こえてくる。楽しそうな笛の音が僕らを誘うように
風に踊っている。今更ながら、お祭りに行きたかったなあ…と後悔するが仕方ない。
今日が絶好のタイミングなのだから…