続け!私の気力

小説を書くか、日記を書くか、

洞窟

幸は手際よく蠟燭に火をつけて、洞窟の中へと向かっていく。


まってよーと真が続く、佐吉はさっきの言葉とは裏腹にまったく動けずにいたので
僕が腕を引っ張っていってやることにした。再び悪夢に引き戻されたようだ。


静かに静かに


押さないでよ


洞窟の中に入ると、まず冷ややかな空気がすーっと体を冷やしていくのがわかった。
夏の火照った体はそれを喜んだが、
同時にまるで違う世界に来てしまったかのような不安感に襲われた。
中の様子はしっかり整備されているようで、地面は綺麗に平らだった。
くねくねとしているが、歩きやすい一本道。
壁には蝋燭を立てるようなものが規則正しい感覚で設置されている。


真っ暗だね


先が全然見えないや


蝋燭の光はなかなか先を照らしてはくれない。
本当はランプがあればよかったのだが、
ランプ係の真が家からうまく持ち出すことができず、急遽蝋燭に変更になった。
ランプを持ってこれなかったと聞いた時、心のどこかでこの洞窟探索が中止に
なることを願ったが、その願いも虚しく蝋燭で続行ということで決着する。


どのくらい歩くんだ…?


そう口を開いたのは佐吉だった。
僕はつい、はっとなる。すっかり佐吉のことを忘れていた。


わからないけど頑張ろう、と僕は今更ながら佐吉を励ます。


お前は大丈夫なのか、龍


その声は弱々しいながらも、本当に僕を心配しているようだった。


僕は4人の中で一番年下ということもあり、弟扱いされることが多い。
特に佐吉はいつでも僕のことを気にかけ、本当の弟のように慕ってくれている。
こんな時でも僕の心配をする佐吉に、
心の底でどうしてもっと早く励ましてやれなかったのだろうと深く反省した。


僕はなんともないよ


精一杯、いつもどうりを装って答える。


佐吉は相変わらず僕の腕にしがみ付いたまま、静かにおうと答えると、
それ以上はなにも話さなかった。
普段は僕らのリーダー的存在で、何をするにも先頭に立ってくれる心強い佐吉。
ここまで暗いところが苦手だとは、僕も先日幸に教えてもらうまでは知らなかった。


もうとっくにバレているのに、まだ強がってるの


そう話す幸は、はぁと小さなため息をついていた。
佐吉はよっぽど妹には悟られたくはないようだ。
その気持ちは同じ妹がいる立場として、わかる部分があるものの、
ここまであからさまに怖がるのなら、
いっそ白状した方がかっこいいのではないかと僕は思った。


ろうそくの火もつかな?


予備をもってきてるよ


よかった


もうどのくらい歩いただろうか、
出口が見えなくなってからだいぶたった。
ここまで誰とも会わずに来ているし、後ろから人が来ている様子もない。
本当に洞窟は無人なのだろうか、それを考えるとまた少し怖くなった。
説教を受けてもいいから、この先に誰かいてくれとこっそり神様にお願いした。


なにがあるんだろうね


わくわくするね


私たち冒険家みたいね


相変わらず、前の二人は賑やかに、そして足早に足を鳴らし進んで行く。
僕ら二人のことは忘れてはいないようだが、それに構っていられないくらい
今の状況が刺激的なようだ。


それも仕方ないことだ。僕らにしては久しぶりの新しい場所、新しい体験だった…